自称、日本好きのホストファミリー。ただしそこにズレを感じる私。日本観もそうですが、他にもズレを感じた出来事がありました。それが私の中で壁を作る出来事となってしまいました。
イギリス留学カンタベリー編⑨ 噛みあわない「ズレ」
ある日、宗教の話になってホストファミリーは、こう言いました。
「私は神を信じない。私の宗教は、言ってみれば自然だ。自然に敬意を払っている。日本人だって自然を信じているだろ?」
アニミズム? それとも神道のことを指しているのかな? と考える私。それはそれでいいのですが、問題はその先。私は応えました。
「私は自然も大切に思ってますが、仏教徒ですよ」
「仏教? そういやブッタって太ってるよな?」
「……まぁ。イメージ的にはそうですが、痩せている仏像なんかもありますよ」
「いやいや、ちょっと待ってろ」
と言って、ホストファミリーは戸棚からなにやら図鑑をひっぱりだしてくる。そして見せてきたページは、日本の文化がイラストで書かれているページ。もちろん、英語で書かれた図鑑でした。
「ほら! みろ! 太ってんじゃないか!? お前が間違ってんだろ! はっは~」
「いやいや、確かに図鑑はそうだけど、もっと他にもいっぱいお釈迦さんの話はあるんですよ。例えば……」
と私は必死になって英語で説明を試みるのですが……。
「違う! 違う! 図鑑はこう書いてるじゃないか! ほらな! はっは~」
「いやだから、こんな話もあって……」
と騒がしくなったので、家族の人に止められました。
この時、私もさすがに少しムッっとしました。私の事なのに、なんでこっちの話を全く聞き入れてくれないんだ。自分の日本のイメージをおしつけるんじゃねぇ。そう心の中で思いました。
でもそれ以上に、ムカッとした出来事がありました。
それは毎週水曜日にいっていた、クリスチャン学生の勉強会についてです。毎週水曜日は夜でかける私。ある日どこに行っているのか尋ねられました。
私はクリスチャンの学生さんと知り合って、その人達の勉強会に行っている。もちろん、仏教徒であることも向こうは承知している。宗教学を学んでいたので、他のいろんな宗教を見てみたい。それに相手はカンタベリーにあるあの大学の学生さん。等々、理由を説明しました。
しかし、「本当にそれは大丈夫なんだろうな?」問い詰められます。私も大丈夫と必至に説明するのですが、どこか納得のいかない様子。どうやら、「行くな」と言いたいようです。「神は信じない」って言葉が私の頭をよぎりました。
友達とパブに行ったり、夜間も事情さえ説明すれば、外出はOK。それは留学生の自主性に任されています。行動に制限をかけられる必要はない。だから直接「行くな」とは言わないのだろう……。
私は思いました。
自分のイメージを押し付けてくるあなたと違って……。強制しようとするあなたと違って……。耳を貸さないあなたと違って……。学生さんは、一生懸命に私の言葉に耳を傾けてくれる。学生さんは、自分の教えを他人に強制しない。学生さんは、お互いに理解しようとしてくれている。
どうしてここで引くことができようか……。ここだけは譲れないと私は無言を貫きました。しかし向こうも譲らない。結局、平行線のまま、話は終わりました。
この件をきっかけに、私の中で壁ができました。事務的に考えようというか、クールになろうというか。なんていうんですかね。ただの仮住まい。こうして私は、ホストファミリーとは、少し距離を置くようになってしまいました。
つづく……